長崎の
キャンプ場

 

湯治キャンプ

筌ノ口温泉,寒の地獄温泉,日之影駅温泉,高千穂温泉,内牧温泉,筋湯温泉,湯坪温泉,壁湯温泉

遊びの約束は苦手だ。私的時間の一点を,虫ピンで刺されたような気分になる。俵山氏は輪をかけてすごい。約束などはなから憶えようという気がない。そんな二人が野にでるとき,行き先や日程など全く白紙で出かける,ほんとに。

「どこに行こうか?」「どこに行こう?」

家を出発し最初の角をどちらに曲がるかが,大きな分かれ目だ。今回は右へハンドルを切る。食材を買っていたら,遅くなったので,高速道路にとりあえず乗る。インターチェンジで折り損なって,先へと進む。

そんなこんなの偶然を繰り返して,たどり着いたところは大分県久住の筌ノ口温泉。夜の10時半だった。

筌ノ口温泉


まずは筌ノ口温泉で一風呂浴びる。ここは24時間入浴ができる。湯は赤茶けていて,鉄のにおいがする。洗い場も結晶化した成分で覆われている。湯を循環させて温泉とほざいているそこらの湯とは訳が違う。本物なのである。


雨だ。台風がやってきてるという。キャンピングカーのサイドオーニング(タープですな)を引き出し,その下に食卓を用意する。雨音もまた心地よし。喰う,飲む,そして寝る。

今回は湯治が目的だ。パソコンばかり相手にしていたら,体調が妙な具合になった。ネットが追ってこぬところで3日間ぼんやり過ごすのだ。

朝7時半起床。俵山氏も目をさます。早速再び温泉へ。ところがあいにく掃除中。

同じく湯に入りに来た地元のパンチパーマ作務衣男が,私たちに向かい苦言をまくし立てる。うなづいていたが理解不可能。たぶん「ここの清掃は表示された時間を守らないのである。かような姿勢は認証できんのである」と言っていたのだと思う。


風呂に入りたい。走ろう。飯田高原を抜け久住を走る。爽快。目の前には台風が近づいていることを知らせる雲。かまわぬ。

寒の地獄


寒の地獄へ。ここは14度の冷泉で知られたポイント,皆一歩ひく温度だ。「ここに入ろうか?」「OK」 初めての体験である。

宿の主にきく。「この温泉の効能は?」「万病に効きます」 ……。

旅館は建て直し中。新しい湯船ができ冷泉と温泉が併設されていた。そちらに浸かる。まず温泉で体を温め,冷泉へ。厳しい。隣の暖かい湯船に転がりこむ。さらに冷泉へ。これを繰り返すうちに,体が慣れ始める。

この間,俵山氏は子供の水遊びのように足だけをチャプチャプと浸けていたかとおもうと,さっさと上がっていった。彼に自己鍛錬という言葉は無縁である。
しばらくして上がってキャンピングカーに戻ると,俵山氏は寝てやがった。9時。考えてみれば,普段ならば彼はまだ寝てる時間帯だ。いつもは11時頃に起床する男なのだ。


私は昔からの湯場へ出かける。こちらは暖かい湯船などなく,冷泉に入った後,ボイラー室で体を温めるスタイルである。冷泉に浸かったご老人に話しかける。

「すごいですねえ,冷たくありませんか?」
「45年ぐらい通ってるからね。戦後すぐに水虫にかかって,九州大学の大学病院にかかったら,ここに行けと勧められた。来たら,なおったねぇ。それ以来通っていたら,風邪知らずになった。万病にいい。アトピーにもいいらしい」

ご老人から,おまえもこちらに入れ,もったいないではないか,とお誘いを受ける。腕組みをし表面積を少なくして浸かるのが正しい入浴法という。入る。厳しい冷たさに身震いし,その後2分ほど経つと不思議な暖かさに全身が包まれ始める。その後,ボイラーの部屋へ。こうして湯成分を体に擦り込む。入浴後,全身がヒヤヒヤとした爽快感に包まれる湯である。爽快。

俵山氏の不思議な物欲

湯から上がりキャンピングカーに戻ると,俵山氏はまだ寝てやがった。

キャンピングカー出発。さらに,やまなみハイウェイを走る。途中,道沿いにある野菜販売所があった。

「まつをさん,野菜が売ってある」 ということで地の野菜を購入。しばらく走る。「お!まつをさん,野菜が売ってある」野菜を購入。さらに走る。「お!まつをさん,野菜が売ってある」野菜を購入。さらに走る。「お!まつをさん,野菜が売ってある」野菜を購入。さらに走る。「お!まつを……」「あんた,馬鹿か」

俵山氏の病気が出た。彼は時々物欲魔となり,針の飛んだレコードのように,一つのものを購入し続けるのである。気づくと車中は,野菜だらけだ。

高森とブラックバスのような男


阿蘇に降りる。波野を回って高森へ。昼食を取る。そうめんと冷奴。夏の正しい昼食である。実はスパゲティを取る予定だったのだが,麺がうどんしかない。

「どうしたのであるか? スパゲティのレトルトルーはあるが,麺はうどんしかないが」
「スープスパゲティのレトルトルーを買った後,レジ前で見かけた純手打ちうどん麺を購入したような気がするのである」 

彼によくあるパターンである。たとえば数キロ走って,スパゲティで有名な店に喰いに行くとする。あと少し走ればその店に着くというとき,大きな看板に『純手打ちうどん』と出ている。彼はそんなとき,大体うどん屋に行く。目の前にルアーがちらつくと,思わずかぶりつく悪食ブラックバスのような男なのである。

「純」だとか「地のもの」だとか「手打ち」だとか「元祖」だとか「本家」だとか,そんな言葉にきわめて弱いのである。と,楽しい昼食が終わって,私は昼寝。俵山氏もまた寝る。不思議な能力である。

高千穂神社に向かって走る。

高千穂神社


高千穂神社。俵山氏は初めてらしい。

「ならば,行こう。私も行きたい」
「温泉はあるのか?」
「ある」
「なにがうまいのか?」
「……俵山さん,その歳になったら,少しは食い物以外のことで,人生上の目的を持ったがいい」


到着。幾多の歴史を超えてきた場所が持つ独特の雰囲気に,息を飲む。私にとっては長男を授かったお礼参りであった。出向くとちょうど夏祭りの日にあたり,神殿の前に植物で編まれた輪状のものが置かれていた。

日之影温泉駅

「温泉はあるのか?今回の旅の目的は湯治であったはずである」
「あ,すまん。ある。ここから延岡に下る途中に,日之影駅というのがある。その駅の2階は温泉になっているのである」
「可なり。趣あり。行くべし」

高千穂から延岡方面へ向かわれる際は,平底トンネル手前から旧道218号線を利用されることをお勧めする。右写真のような清流沿いの素晴らしい景観が続く。


日之影温泉駅で入浴。町のありようは今から40年ぐらい前のたたずまいで,懐かしさに浸れる。残念ながらここは循環機使用の湯。

五ヶ瀬川

さらに五ヶ瀬川下流方面へ走る。キャンプ地として選んだのは,宮崎県北方町川水洗の河川流域。


写真の右上に小さくキャンピングカーが写っている。ここで今夜は清流の眺めを望みながら,夕食を楽しむことにする。眼下には鮎釣りの屋形船が点在している。

地元の方と話をする。旅の楽しみの一つだ。
「鮎は捕れましたか?」「今日は2匹だけ。こんなに水量が増えてあまり濁ってないということは,鹿川流域あたりに雨が降ったということだな。熊本方面に降ったときはもっと濁る」
キャンプをするときは,特に自然を相手にした地元の方と話をすると,得る情報が多い。

流域に向かって夕食を楽しむ。刻々と日が沈み,辺りは静寂に包まれていく。優雅なり。と思っていたら,最後には目の前全面に真っ暗な闇が広がった。2人で1時間ほどぼんやり漆黒の闇をながめていた。闇は闇である。だんだん自分たちのやってることが空しくなる。早速無言の撤収を開始する。皆さん,夜景を楽しむときは,光がないといけません。憶えときましょう。

高千穂温泉

夜9時半,移動開始。暑い。だいぶ下まで降りてきていたので,気温が暑くなり酒を飲む気にもならないでいた。避暑は山に限る。温泉にも入りたい。逆行し高千穂へ。ということで着いた高千穂温泉。大きな施設だ。残念ながら循環機付き温泉。


さらに移動。阿蘇の内輪に至ってやっと直線道路となる。スピードメーターが60を示す。快適に走る。
俵山氏は横でうつらうつらしていた。

白水村瑠璃温泉


一夜明けて,宿泊したここは阿蘇の白水村瑠璃温泉。起床6時半。朝風呂すべし。 私たちは,昭和の頃,阿蘇にさかんに訪れていた。そのためか,もはやこの南阿蘇一帯には惹かれない。
「もうキャンプを初めて,10年以上たつなあ」
あの頃は,まだキャンプに来て,女性との出会いをうっすらと期待していたが,気づくと淡々と野に遊ぶ歳になっている。

内牧温泉

内牧温泉へ向かう。この温泉は高度経済成長時代に隆盛を極めた温泉歓楽街のイメージが強く,寄りついていなかった。けれどそれほど古くからの温泉地であるならば,密やかに町民に親しまれている公共温泉場があるのではないか。そんな温泉場は早朝から開くはずだ。そう踏んだ。


内牧温泉に到着。読みは当たった。地元の道行く人から情報を聞き出す。この一帯に10箇所の公共温泉場があるという。

その内の一カ所「大阿蘇」で朝風呂を楽しむ。循環機なしの正しい温泉。湯質は,つるつる感なしで冬向きか。ここは中心街のクランク(行けばわかります)を大分側へ向かって2つ目の信号から右へ行った橋の袂にある。

阿蘇カルデラの外輪山


阿蘇カルデラの外輪山の大観望付近へ移動。車の後部を絶壁に寄せ駐車。昼食だ。
車内の窓からは,阿蘇の風景が睥睨される。絶景。

とはいったものの,折からの台風の風で車内はやたらと揺れるのである。ここでナスカレーを食す。夏はカレーである。とは言ったものの汗だくとなる。こりゃ,温泉だな。

筋湯温泉


ということで出向いた筋湯温泉。ここで二人別々の湯に入ることになった。というのも俵山氏は便意をもようし,便所付きの湯場を求めたためである。

写真は一人でくつろいだ筋湯温泉薬師湯。筋湯温泉というと打たせ湯が有名であるが,この湯は街の裏手にひっそりとあり,なかなか趣がある。混浴で鍵などかからぬ。循環機なし。けれど温泉成分表がない。あやしい(笑)。

湯坪温泉


さらに温泉行脚は続く。湯坪温泉のなるほど湯。俵山氏曰く「よく分かった人が作ってるな」 風情の湯場が道沿いにひっそりとあり,番人などいない。家族湯として使用可との明記があり,内側から鍵がかかる。家族湯というと2~3000円もとる温泉に比べると実に良心的である。ただし循環機使用。


「ちょっと,どいてくれ」と言う私の前に立ちはだかって写真に写った俵山氏。その体型,なにか異星人のようでもある。先にあがった氏は,私が帰ってみると,また寝てやがった。

壁湯温泉


仕上げの湯は壁湯温泉である。古い温泉の形態を残した湯だ。共同浴場と,福元旅館のものがある。どちらも川に面し,岩壁の中から湯がこんこんと沸き出している。ともに混浴であるが,福元旅館の方にはささやかな女性専用の封じられた湯場が用意されている。私たちは駐車場を使用したので福元旅館の方を使った。

湯は青く透明感があり,掃除が行き届いているのがわかる。この福元旅館,私たちが「ひなびた温泉旅館に行ってゆっくりするか」という時にイメージするときの旅館がそのまま現存したようないい宿だ。

以上,鹿児島を除く九州全県を通過し,浸かった湯は合計8カ所にのぼった。




昼食をとる。地蔵原付近。まつを,したたかに喰いウイスキーを飲み,寝る。こんなに野に出れるのも,妻があってのことだ。感謝している。

 


 

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